データ同化の磁気圏物理学への応用

地球周辺の宇宙空間は希薄なプラズマで満たされており, 多数の荷電粒子が飛び交っているが, その荷電粒子の運動が地球の磁場に強く影響されている 地上数百kmから数万kmくらいの領域を磁気圏と呼ぶ. 磁気圏の中でも比較的地球に近い領域では, 地球磁場に捕捉された高エネルギーの荷電粒子が 地球を取り巻くように存在している. このような高エネルギーの荷電粒子は,磁気圏・電離圏の磁場や電流の 変動に大きな影響を及ぼしており,そのダイナミクスついて, 数値シミュレーションによって多数のモデリング研究がなされている. しかし,磁気圏は観測データが乏しく十分な情報が得られていないため, モデリングを行うに際しても,境界条件等に極めて粗い仮定を置かざるを得ず, それゆえシミュレーションモデルの信頼性も高いとは言えない.

しかし,2000年に打ち上げられたIMAGE衛星の高速中性粒子の観測によって,磁気圏の高エネルギーイオンのグローバルな空間分布についての情報が,2分という高い時間分解能で得られた.下図のように,高速中性粒子は,磁気圏に捕捉された高エネルギーイオンと地球近傍の低エネルギーの中性粒子との電荷交換によって生成されるので,低エネルギーの中性粒子の分布をモデルによって仮定すれば,高速中性粒子の観測から高エネルギーイオンの分布の情報が得られるのである.

我々は,観測された高速中性粒子データの情報を使って既存の数値シミュレーションモデルを改良し,現実のイオンのダイナミクスをうまく再現できる信頼性の高いモデルを構築するための研究を進めている.このように観測データに適合するように数値モデルを改良するアプローチはデータ同化と呼ばれる.既存の数値モデルでは,IMAGE衛星の高速中性粒子データの観測結果とうまく合わない箇所が多いのだが,観測の情報をシミュレーションモデルに同化することで,モデルと観測との矛盾の原因を明らかにし,磁気圏の高エネルギーイオンの様相について理解を深めることを目指している.

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