データ同化研究開発センター

Research and Development Center for Data Assimilation

  • フォントサイズを大きくする
  • デフォルトフォントサイズ
  • フォントサイズを小さく
Home お知らせ セミナー 第83回データ同化セミナー

第83回データ同化セミナー

日時:2016年9月16日(金) 13:30-15:00
場所:セミナー室2
講演者:立木佑弥 (京都大学ウイルス研究所、九州大学大学院理学研究院)

題目:森林生態学における長期観測データと数理モデルの融合アプローチ

 

講演要旨: 植物は光合成により炭素を固定し、酸素を放出することによって地球上の大気のバ ランスを調整する役割を担うとともに、その生産者としての生態的役割から、全ての 動物の生活を支える基盤である。近年の地球温暖化などの大規模な環境変動によって 基盤となる生態系サービスの喪失が危惧されている。そのため、地球上の栄養塩流に 貢献する森林のダイナミクスを理解することは基礎科学のみならず応用貢献上も基本 的に重要である。  本講演では、これまで講演者が行ってきた植物生態学における長期観測データと数理 モデリングの融合アプローチについて二つの内容について議論したい。一つ目は森林 植物が示す開花動態に関して議論する。多くの樹木は毎年コンスタントに繁殖を行う わけではなくその開花量、種子生産高に著しい変動があり、この変動が地域レベルで 同調する(豊凶)。豊凶は、森林に生息する哺乳類など種子を摂餌する動物の餌資源量 を規定する。例えばクマの出生率に影響を与えることや、里部への出現との相関が示 されている。種子生産の変動は主に各樹木が体内に蓄積する「資源」の収支の観点か ら数理モデルが提案されていたが、個体レベルでの樹木の開花動態が蓄積されていな かったことからその検証が難しかった。よって、窒素や炭素などの資源の候補すら絞 られておらず、環境変動が開花動態に与える影響は全く予測されていなかった。近 年、個体レベルの開花動態の記録が蓄積されつつあり、森林における各個体の振る舞 いが見えてきた。本講演では、1haの林分における170個体の樹木個体の開花履歴につ いて、窒素資源が制約条件となっている可能性が高いことを数理モデル、化学分析、 長期観測の融合アプローチにより示す。  二つ目は森林群集の多様性維持機構を議論する。植物は常に土壌環境(生物的・非 生物的環境)と相互作用している。特に土壌中の種特異的寄生菌との敵対的関係は群 集の多様性およびそのパターン影響を与える事が示唆されている。この敵対関係は植 物群集に負の頻度依存効果をもたらし、種の多様性を促進すると考えられる。土壌寄 生菌の時空間動態を反応拡散方程式を用いて記述し、空間明示的な森林の群集動態モ デルを用いて、植物-土壌相互作用が樹木の種多様性に与える影響について議論す る。 土壌寄生菌は樹木の芽生えに捕食寄生しながら拡散により分布域を広げていく。これ により実生密度の大きいところほど寄生菌の密度が高まるため実生死亡率が高くな り、実生密度の空間パターンが形成される。このモデルを用いて、土壌微生物の人口 学的パラメータの違いが、地球規模での森林群集の多様性の違いをもたらし、森林群 集の局所的空間分布のパターンをよく説明することを示す。

 

Home お知らせ セミナー 第83回データ同化セミナー